
一人称小説とは、どんな小説のことを指すんだ?

『私』『僕』で語れば、一人称小説になるの?
小説を書き始めた人のなかには、このような疑問を持つ人もいるでしょう。
一人称小説とは、「私」「僕」「俺」など、特定の登場人物の視点から物語を描く小説です。基本的には主人公視点で物語を進めるため、読者が主人公の感情に入り込みやすいという特徴があります。
一方で、主人公が知らない出来事を自由に描けないなど、三人称小説とは異なる制約もあります。
この記事では、一人称小説の意味や特徴、三人称小説との違い、メリット・デメリットを解説します。
一人称小説とは?
一人称小説とは、物語の語り手が「私」「僕」「俺」などの一人称を使って物語を語る形式のことです。
たとえば、次のような文章です。
私が窓の外を見ると、ひどい雨が降っていた。窓を叩きつけるような雨を見ていると、なぜかあの日のことを思い出す。
この文章では、「私」という人物が見たものや感じたことを中心に物語が進んでいます。
つまり、一人称小説では「何が起こったのか」だけではなく、その出来事を語り手がどう見て、どう感じたのかが直接伝えられます。
一人称小説でできること
一人称小説では、次のようなことができます。
- 「私」「僕」「俺」などの一人称で物語を語れる
- 語り手となる人物の視点を通して物語を進められる
- 語り手が見たもの、聞いたもの、感じたことを中心に描ける
- 語り手の感情や考えを直接描写しやすい
- 読者が語り手の体験を追体験しやすい
一人称小説では、視点人物の心情を直接語れるため、感情を追いかけたい小説に最適です。
一人称小説で「語り手」と「主人公」は同じ?
一人称小説では、主人公がそのまま語り手になるケースが多くあります。しかし、語り手と主人公が必ずしも同じ人物である必要はありません。
例えば、主人公の親友が「私」として物語を語ることもできます。
私は、彼が泣いているところを一度しか見たことがない。
あの日も、彼はいつものように笑っていた。
この場合、「私」は物語の語り手ですが、中心となる人物は「彼」です。
一人称小説の特徴
それではここからは、実際に一人称小説の特徴を見ていきましょう。
主人公の内面を深く描写できる
一人称小説の大きな特徴は、主人公の内面を深く描写できることです。
たとえば、私は彼に「大丈夫」と言った。という一文だけでも、一人称なら、その直後に主人公の本音を続けられます。
私は彼に「大丈夫」と言った。
だけど本当は、全然大丈夫なんかじゃなかった。今にも流れ出しそうな涙を、ずっとこらえていた。
このように、主人公の言葉と本音を並べることで、表面的な行動と内面のギャップを描けます。
喜びや不安、嫉妬、後悔、葛藤など、複雑な感情を読者に直接伝えたい作品と相性がよいでしょう。
読者に与える情報の範囲をコントロールしやすい
一人称小説では、基本的に語り手が知っていることを中心に物語を描きます。そのため、主人公が自宅にいる場合、学校にいる人物の行動を描くことはできません。
しかし、これは一人称小説の制約であると同時に、物語上の武器にもなります。
主人公が知らない情報を読者にも隠すことで、「この人は何を考えているのだろう?」「本当は何が起こっているのだろう?」という疑問を生み出せるからです。
ミステリーやサスペンスなどでは、この特徴を活かした構成が活かせます。
語り手の個性が文章に表れる
一人称小説では、語り手の性格が文章そのものに表れます。
たとえば、同じ出来事でも、明るい人物と内向的な人物では表現が変わるでしょう。
例えば、「今日は最高の日だ。こんなに嬉しいことはない!」と語る人物もいれば、「まあ、悪くない日だったと思う。たぶん。」と控えめな人物もいるでしょう。
一人称小説では、口調だけではなく、
- 使う言葉
- 考え方
- 物事の捉え方
- 年齢
- 性格
- 価値観
- 人間関係
などが文章に反映されます。
そのため、一人称小説では「誰が語っているのか」を意識するほど、キャラクターの存在感が強くなります。
一人称小説と三人称小説の違い
一人称小説と三人称小説の大きな違いは、物語をどの視点から語るかです。
| 一人称小説 | 三人称小説 | |
|---|---|---|
| 語り方 | 私・僕・俺など | 彼・彼女・名前など |
| 視点 | 特定の人物を中心に描く | 複数の人物にも広げやすい |
| 心情描写 | 語り手の内面を深く描きやすい | 視点人物に応じて描く |
| 読者との距離 | 主人公に近くなりやすい | 比較的客観的に描きやすい |
| 情報量 | 語り手の知識に制限されやすい | 広い範囲の情報を扱いやすい |
| 向いている作品 | 心理描写を重視する作品など | 群像劇・壮大な物語など |
「一人称は心理描写向き」「三人称は群像劇向き」というのは、あくまで一つの傾向です。
一人称でも壮大な物語は書けますし、三人称でも主人公の心理を深く描くことはできます。

重要なのは、自分が書きたい物語がどの視点に合っているのかを考えることです。
一人称と三人称、どちらが書きやすい?
小説を書き始めたばかりの人の多くが、「一人称と三人称ではどちらが書きやすいの?」と迷われます。
一人称は、主人公の視点に集中しやすいというメリットがあります。
「主人公が何を見たのか」「何を感じたのか」を考えながら書けるため、初めて小説を書く人でも視点を意識しやすい側面があります。
一方、三人称は複数の人物や世界全体を描きやすいのが特徴です。
たとえば、
- 主人公がいない場所で起こっている出来事
- 複数の登場人物の動き
- 広い世界観
- 群像劇
などを描きたい場合は、三人称が適していることがあります。

実際に両方の視点で書いてみて、書きやすい方を選ぶのが最適です!
一人称小説のメリット
一人称小説には、物語を書くうえでさまざまなメリットがあります。
主人公に感情移入してもらいやすい
一人称小説では、主人公が見たものや感じたことを読者が直接追っていくことができます。そのため、主人公との距離が近くなりやすく、読者が主人公の感情を追体験しやすいというメリットがあります。
怒っている・悲しんでいる・喜んでいる。内面と他のキャラクターに対する行動のギャップまで直接感じられるため、感情移入しやすいです。
心理描写を強く印象づけられる
一人称小説は、心理描写とも相性がよい形式です。
「怖い」「悲しい」と直接書くだけでなく、
大丈夫。そう自分に言い聞かせた。
けれど、握りしめた手は震えていた。
のように、思考と身体反応を組み合わせることもできます。
主人公の心の動きを細かく追えるため、恋愛小説や青春小説、心理描写を重視する作品などで力を発揮します。
一人称小説のデメリット・注意点
一人称小説には魅力がある一方で、書く際には注意したいポイントもあります。
主人公以外の人物の心理を直接描きにくい
一人称小説では、基本的に主人公から見える範囲で物語を描きます。
そのため、主人公が見ていない人物について、『彼は悲しかった。』と直接書くと、視点が不自然になることがあります。
視点人物以外の感情を書く場合は、
彼は何も言わなかった。
だけど、彼の手の震えや下を向く視線が、僕には涙をこらえているように見えた。
のように、主人公が見たり聞いたりできる情報から相手の感情を推測します。
「主人公が知っていること」と「読者に伝えたいこと」を分けて考えるのがポイントです。
視点の制約がある
一人称小説では、主人公がその場にいない出来事を自由に描くことができません。
たとえば主人公が自宅にいるのに、『そのころ彼は駅前で彼女と話をしていた。彼は彼女に怒りを感じていた。』と書いてしまうと、「なぜ主人公が知らないことを知っているのか?」という疑問が生じます。

このような視点の制約は、一人称小説を書くうえで特に注意したいポイントです。
説明が多くなりやすい
一人称小説では、主人公が読者に向かって説明しているような文章になってしまうことがあります。
たとえば、
私には高校生の妹がいる。妹は明るい性格で、学校では友達が多い。去年からテニス部に入っている。
と説明を続けると、物語というよりプロフィール紹介のように感じられるかもしれません。

どう書くのがいいんですか?
そこで、
「お姉ちゃん、今日も帰り遅いから」
妹はラケットを肩にかけたまま、玄関を飛び出していった。
のように、会話や行動の中に情報を入れると自然に人物を紹介できます。

説明をするのではなく、シーンから想像させるのがいいですよ!
「視点のブレ」に注意する
一人称小説で特に起こりやすいのが、視点のブレです。
例えば、主人公が「私」なのに、途中から別の人物の心情を直接描いてしまうと、読者が混乱する可能性があります。
一人称小説を書くときは、「この場面で、主人公は何を知っているのか?」を常に意識することが大切です。
一人称小説を書くときによくある失敗
一人称小説は書きやすい形式である一方、視点を意識しないと文章が不自然になりやすいものです。
ここでは、よくある失敗と改善方法を紹介します。
「私は〜と思った」が多くなりすぎる
一人称では主人公の心理を描きやすいため、
「私は悲しいと思った」
「私は怖いと思った」
「私は彼が嫌いだと思った」
のように、「〜と思った」が連続してしまうことがあります。

感情を直接説明するだけでなく、身体反応や行動で表現してみましょう!
例えば、『私は怖いと思った。』ではなく、『ドアノブに手をかけた瞬間、全身を冷たい何かが駆け巡った。』とすれば、恐怖を読者に感じさせることができます。
心情をすべて説明してしまう
主人公が感じたことをすべて文章で説明すると、読者が想像する余地がなくなります。
小説では、あえて感情を直接説明せず、表情や行動、風景などから読者に感じ取ってもらう方法も効果的です。
「説明する」のではなく「感じさせる」ことを意識してみましょう。
語り手のキャラクターと文章が合っていない
語り手が高校生なのに、地の文だけが妙に堅苦しかったり、幼いキャラクターなのに難しい言葉を多用したりすると、キャラクターと文章に違和感が生まれます。
一人称小説では、語り手の性格や年齢、価値観を文章にも反映させましょう。
一人称小説とは、主人公の「体験」を読者に届ける書き方
一人称小説とは、単に「私」「僕」「俺」という言葉を使って書く小説ではありません。
誰の目を通して物語を見せるのかを決め、その人物が見たもの、聞いたこと、感じたことを読者に届ける書き方です。
一人称小説には、次のような特徴があります。
- 「私」「僕」「俺」などの視点で物語を描く
- 主人公の内面や感情を深く描きやすい
- 読者が主人公に感情移入しやすい
- 語り手の個性を文章に反映できる
- 一方で、視点や情報に制約がある
- 「誰の目で物語を見せるのか」を意識することが重要
まずは一つの場面を「主人公の目から見たらどう見えるのか」と考えてみるとよいでしょう。
「何が起きたのか」だけを書くのではなく、
主人公は何を見たのか。
何を聞いたのか。
何を感じたのか。
そして、本当は何を言いたかったのか。
まで掘り下げていくと、一人称ならではの臨場感が生まれます。
一人称小説を書いてみたい人は、まず主人公になったつもりで、その場で何を見て、何を感じたのかを書いてみるところから始めてみましょう。



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